「voice」
「はぁ〜〜〜・・・やっぱり眠れないや」
静寂と暗闇の支配する深夜、男はベッドから身を起こした。長く垂れたその前髪を掻揚げながら、また、ため息。
「何年経っても、慣れやしな・・・いいや・・・慣れたくもないな」
目を閉じれば、数時間前までの光景が映し出される。できれば二度と遭いたくない、と、毎回思う男の気持ちとはうらはらに、まるで自分達が試されているかのように、襲ってくる敵、そして、戦場。どんな相手だって、それぞれの思想や生活がある。たまたま敵同志になったために、戦わざるを得ない、初めて会う者たち。自分は戦うために生きている・・・それは承知している・・・はずだ。戦いのできない自分など、なんの価値もない人間なんだという事も・・・。それでもできれば、血を見ることなく、平和を勝ち取りたい、自分の能力を使わないで解決したい、そう思う度に、いつも同じ夜を迎える。
戦うことを強いられた男、島村ジョーは、その肉体を手にした日から、幾度となく、望まぬ戦いを潜り抜け、「勝利」の喜びとは反して、戦いの終わった日は、毎回、眠れぬ夜を過ごすことになる。
「何か飲んでこよう」
高ぶった神経とは相反して、疲れきった肉体を引きずるように立ち上がり、ドアのノブに手をかけた、その瞬間、廊下の向こうから、ドアの開く音が聞こえる。
「誰か起きてるのかな?」
なくとなく、こんな深夜に顔を合わせることに気が引けて、ジョーは、ドア越しに聞き耳を立てた。
「じゃ、ゆっくりおやすみ。フランソワーズ」
ドアの外から聞こえた男の声。聞き覚えがある。もちろんだ。共に戦い、仲間として、おそらく一生を共にするであろうハインリヒのものだ。
「なんで、こんな時間に、彼がフランソワーズの部屋から・・・?」
こうして9人の仲間としての生活が始まってから、今までの暮らしの中において、深夜にフランソワーズの部屋を訪れる者が、自分以外にいた事実など、知らなかった。
彼女は、「仲間」に加えて「最愛なる者」として、自分の中では、かけがえのない女性になっていた。おそらく、彼女がいてくれなかったら、自分はきっと、生きていなかったとさえ思う。それほどに、大切な存在。
その彼女が今、自分ではない男を、深夜の部屋に招き入れていた事実。信じられなかった。できれば、夢であって欲しいと・・・。
しかし、さっき自分が聞いた声は、確かにフランソワーズへ向けられていた。
「嫌だ」
戦いを終えてきた神経の高ぶりが拍車をかけ、ジョーは嫉妬心をむき出した。
「フランソワーズは僕のものだ」
ドアのノブを力いっぱい開けると、一心不乱に、廊下の向こうへ歩き出した。5つの部屋の前を通り抜け、目的の部屋の前に着いた。
―コンコン―
思ったよりも大きく、その音は静寂を破った。
「誰?」
驚いたような震える声。
「僕だよ」
女は一瞬驚き、しかしすぐに、その美しい顔をほころばせていた。ジョーの最も大事な人、フランソワーズ。

フランソワーズの言葉が言い終わらぬうちに、ジョーは開き始めたドアの隙間から、自分の体を室内へと移動させた。そして驚く彼女の体を自分の手中へと収めた。
「ジョー・・・どうしたの?一体・・・」
何故か、フランソワーズの言葉が、余計にジョーの気持ちを高ぶらせた。
その太い腕で、力いっぱいフランソワーズの体を抱きしめていた。
「いっ・・・痛いわ・・・ジョー・・・」
もはや、普段の優しいだけの男ではなかった。嫉妬の炎を滾らせ、愛欲に溢れた男がそこにいた。
「やめて・・・ジョー・・・何があったの?」
フランソワーズは、なんとか両手を抜くと、ジョーの頬に差し伸べた。
「ジョー お願い。ちゃんと訳を話して」
優しくジョーの頬を撫でながら、その顔を自分の方へと向けた。
そこにいたのは、今まで見たこともない程の、苦痛な表情をしたジョーだった。
「ジョー・・・?」
やっと開いた重い口から出た言葉は
「・・・なんでこんな時間に、ハインリヒが君の部屋から出てくるんだ?」
フランソワーズは驚いた。と同時に少しだけ可笑しくなった。ジョーが嫉妬しているのだ。時折見せる、子供のような態度・・・それさえもフランソワーズには愛しいと思う瞬間なのだが、今はちょっと違う・・・先刻、自分の部屋から出ていった、ハインリヒとの関係を問いただしているのだ。
「ジョーったら、もしかして誤解してる?」
少し笑いながら答えた彼女に、またしても醜いほどの嫉妬心をぶつける。
「こんな夜更けに、なんで僕以外の男と一緒にいるんだ?!」
いつになく、荒々しい声でジョーは、フランソワーズに怒りの眼差しを向けた。
フランソワーズは、自分の腕をジョーの背中へ廻し、厚い胸に顔を沈めた。
「馬鹿ね・・・何にもあるわけないじゃない。ハインリヒは、私の声に心配して来てくれただけよ」
「声?」
「――― 私ね、戦いから戻ってきた夜は、必ず嫌な夢を見てしまうの。昼間目にした残虐な光景が、脳裏から離れなくて・・・毎回、うなされて・・・」
「うなされる?」
「ええ。かなり大きな声を挙げてしまってるみたいなの。気がつくといつも、隣の部屋のハインリヒやジェットがドアをノックしてくれて、それで悪夢から覚めるの」
そうだ。自分でさえ、毎回、眠れぬ夜を過ごしているのだ。フランソワーズが平気でいるわけがないのだ。誰よりも優しくて、誰よりも戦いに対して怒りを抱いている彼女が、どんな夜を今まで過ごしてきたのか、自分には考える余裕がなかった。
「全然知らなかった・・・」
「それはそうよ。ジョーの部屋は、一番向こうだもの。私の声が届くわけないわ。それに・・・ジョーが一緒にいてくれる夜は、そんな夢なんて見ないもの」
彼女と一緒に過ごす夜も、何度となく重ねてきたが、今まで一度も自分の腕の中でうなされたことはなかった。だから、一人の夜のことなど、考えてやる事さえしなかった。
「・・・ごめん・・・」
「やぁね。ジョーが謝ることじゃないわ」
「でも・・・」
悔しかった。自分の知らないところで、仲間の男たちが彼女を慰め、助けていた。彼女のすべてを支えてやりたかったのに・・・。
「フランソワーズ・・・」
ジョーは、先ほどのそれとは違い、慈しむように、優しくフランソワーズを抱きしめた。
「これからは、僕が君の悪夢を解き放していくよ」
やわらかな細い髪を、滑らせるように撫でながら、白い頬に自らの頬を寄せた。
「ありがとう。ジョー・・・」
いつもの柔らかくて暖かい抱擁に、フランソワーズは先程までの悪夢など忘れていった。
自分には、こうして包んでくれる、大きくて逞しい腕がある。優しく囁いてくれる声がある。誰よりも愛しい人がいる。失ったものと引き換えに得た、大きな存在。彼がいてくれる限り、強く生きていけるのだ。
触れ合った頬を少しずらし、ジョーは小さな唇に己のものを重ねた。
もはや、溢れ出た想いを止められなかった。しばらくぶりに味わうフランソワーズの舌の感触 … 甘い唾液…時折漏れる、か細い吐息。何度も何度も熱いくちづけをかわす。

力の入らなくなったフランソワーズの体を抱えるようにして、ベッドに横たえさせる。
いつもなら・・・、戦いから戻ってきたばかりの時や、仲間がこの研究所にいる時には、彼女と関係を持つことを禁じてきた。けじめがつかなくなるのが、嫌だったし、他人の死に直面してきた自分だけが、幸せな気分に浸るのも気が退けた。だが、もうジョーの体は、サイボーグではなく、愛する者を目の前にして血潮を滾らせる、単なる男になっていた。
今度は、上から覆い被さるようにフランソワーズの唇を奪い、片手で彼女の体を隠しているネグリジェのボタンを外していく。
「ジョー・・・だめよ・・・みんながいるのに・・・」
慌ててその動く手を止める。
「だめだよ・・・もう・・・止められないよ・・・・・・フランソワーズ ・・・欲しいんだ・・・」
ジョーはフランソワーズの申し出を断ると、その首筋に舌を這わせる。
「あぁ・・・ん」
触れるか触れないかの微妙な舌の感触に、自分の意志とは別の反応を、つい漏らしてしまったフランソワーズは、頬を赤らめた。
「フランソワーズ・・・」
今度は耳元で、低く囁きながら、耳たぶを優しく噛む。
「・・・ジョー・・・」
もはや、抵抗する力のなくなったフランソワーズは、彼の成すがままに、透き通る肌を露にしていった。

何度見ても眩しいほどの肉体を前に、ジョーはしばらく目を奪われていた。
「そんなにじっと見ないで・・・」
「だって奇麗だから・・・良かった・・・今回も君を傷つけずに戦いが終わって・・・」
「ジョー・・・」
フランソワーズは自分の両手を広げると、ジョーをゆっくり引き寄せた。
「・・・あなたがいつも守ってくれてるからよ」
ジョーの耳元でそっと囁いた。ジョーの体が更に熱くなる。再度交わされる唇と舌の狂乱。ジョーは、手のひらで柔らかいふくらみを、揉み上げる。その頂点に、恥ずかし気にピンク色をして震えている、かわいらしい乳房を指で摘まむ。
「ああっ・・・はぁ・・・ん」
いけない、と思いつつも、勝手に漏れる声。
硬く強張った乳房が、その存在を主張するかのように突き出し、ジョーは、それを大きく頬張る。舌で転がし、歯で甘く噛み、吸い上げる。

「凄いよ・・・こんなに濡れてる・・・」
「いやん・・・あぁっ・・・」
― クチュッ・・・クチュ・・・―
茂みに隠れた花の芯が、姿を徐々に大きく現していく。
ジョーの指が、溢れた泉に導かれるように、その奥へと進んでいく。
「あああんっ・・・はぁ・・・」
なんなく進められた指は、その熱く湧き出る源泉に辿り着き、自由に動き回る。滑るように指を出し入れし、内壁をなぞる様に這わせ、次にはもう一本増やし・・・。
― グチャ・・・ピチャ・・・―
何度も体を仰け反らせ、敏感に反応するその様に、ジョーの自身も、熱く脈打っている。
「フランソワーズ・・・いい?」

― ジュブッ・・・ ―
ジョーは、ゆっくりと己の自身を、フランソワーズのその更に奥へと進めた。
「はぁ・・・ん」
「フランソワーズの中・・・凄く・・・気持ちいい・・・」
「・・・ジョー・・・私・・・も・・・」
重なり合ったその格好で、ジョーは、フランソワーズの唇、鼻、瞼、おでこ、耳 …あらゆる個所に口ぢけの嵐を浴びせる。
どんな苦しい戦いが起きたとしても、どんなつらい出来事が降りかかったとしても、きっと、彼女と一緒なら、自分は生きていけるだろう、そして、ずっと自分の手で、この愛しい人を守り続けていきたい、そんな想いが、彼女を抱く度に、更に強くなる。
体は実に正直に、ジョーの思いを受け取り、フランソワーズの中に収められた分身は、まるで意志を持っているかのように、硬く大きく、更に熱くその存在を誇示していく。

静寂の中に響く、淫らな音、荒い息遣い、艶めかしい声 …
―― グチュッ・・・クチュッ・・・・・・ハァ・・・ハァ・・・・・・んああっ・・・はんっ・・・ ――
徐々に激しくなるジョーの規則的な動きに、肩にしがみつきながら、必死に彼のすべてを飲みこもうと、応えるフランソワーズ。時は今、ふたりだけのものだった。
「フランソワーズっ・・・フランソワーズ」
「ジョー・・・ああっ・・・ジョー!」
互いの名を呼びながら、共にその熱き想いを、昇天させた―――。
二人の繋がれた部分をそのままに、ジョーはフランソワーズの呼吸が整うまで、やさしく髪を梳きながら、先程の余韻にまどろんでいた。
「大丈夫かい?フランソワーズ・・・」
ゆっくりと瞼を開き、憂いを含んだその瞳でジョーと目を合わせたフランソワーズは、頬を赤らめて、恥ずかしそうに微笑んだ。
いつも肌を重ねた後の、この、彼女のはにかんだような、いつまでも初々しいその笑顔が、ジョーは、何よりも好きだった。自分にしか見せないこの仕草・・・誰にも渡したくない・・・だから―――・・・
「今度からは、深夜に誰かを部屋に入れたら、だめだよ」
「ジョー・・・わかってるわ・・・ごめんなさい」

夜の幎が二人を優しく包み、再び、夜は静寂さを取り戻していった ―――。
◇お・ま・け◇
「!」
寝返りを打ったジェットは、今夜もまた、隣の部屋から聞こえた声に飛び起きた。
「フランソワーズ・・・今夜もか・・・」
傍らに置いてあったTシャツに袖を通し、ベッドから抜け出した。ドアを開け、毎回、戦いの終わった夜に、「声」を上げているその部屋の前へと向かった。
・・・がっ!
「な〜んだ。『声』違いか・・・ちっ!よろしくしてやがらぁ」
もはや、自分の役目はいらない、と察したジェットは、明日の飛行機の空席があることを願い、ふとんを頭から被って眠る努力をしたのだった。