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「深淵に眠る情欲・序章」
                                                            ななせ 様

1.
 開け放った窓から、心地良い風が入ってくる。
「うーん、いい気持ち」
フランソワーズは身体を伸ばし、深呼吸して、頬杖をつきながら、眼下に青く広がる美しい海を眺めた。
珍しいことに、研究所内は今彼女1人だった。ジョーはギルモアの用事に付き合って外出しており、他の仲間たちもそれぞれの自由な時間を満喫している筈だ。
丁度いいわ、と彼女は掃除を始めたのだが、あまりの青空と海の美しさに手を止めて、しばらくの間、爽やかな風に身を委ねていた。

 玄関ホールから、人影が、彼女の姿を見つけてリビングに静かに入って来た。
風にそよぐ長い髪から覗く、優しい微笑みをたたえた彼女の横顔を、その人物はしばし見つめていた。
「今日はいい天気だね」
たった今帰って来た、という振りを演じながら、ハインリヒは声を掛けた。
あ、とフランソワーズは振り返り、ニッコリと微笑んだ。
「お帰りなさいハインリヒ――今、誰もいなくって…ちょっと退屈してたところよ」
「誰も?…ジョーは?」
「博士のお供なの。専属運転手みたいよね」
クスッと微笑う。
「へえ…てっきり俺は君とジョーの2人で何処かへ行ってると思ってたよ―――掃除の途中かい?」
ソファの横に置いてある掃除機を見て、ハインリヒは言った。
「途中って言うか…サボってたんだけど――そうだわ、折角だから…何かしてほしいこと、ない?お掃除でも何でも。いつも自分でやってて手が回らない所とかあるでしょ」
フランソワーズの屈託のないその言葉に、彼は珍しくドギマギした。
彼女を、自分の部屋に入れるなどということは、ハインリヒには考えられないことだった。よりにもよて、こんな誰もいない時に若い男と女が閉鎖された空間にいたら…それに、自分は―――
ジョーという恋人が彼女にはいると知りつつ、自分はどんどん彼女に惹かれているというのに。
「いや…気を使わなくっていいって。俺なりにちゃんとやってるしさ」
「そう?じゃ、何かあったら遠慮なく言って。ね?」
「あ…ああ、そうするよ」
フランソワーズはリビングを出て、他の部屋へ繋がる廊下を歩いていった。それを見送り、ハインリヒは深く溜め息をついた。…良かった、という思いで一杯だ。自分だって一人の男である。何の障害もないこの状況に、理性が果たして耐えられるか、彼は自信があるとは決して言えなかった。
「それは勘弁だぜ、フランソワーズ…」

2.
 それからハインリヒはずっと自室に篭り、なるべくフランソワーズと顔を合わせないようにしていた。
でなければ、何かのきっかけで、今まで隠れていた自分がここぞとばかりに姿を現してしまいそうで恐ろしかったのだ。
(この俺が…怯えるなんざ…)
思わず苦笑する。
その時、ドアがノックされ、彼はドキリとしながら顔を上げた。
「何だい?」
「…開けていい?」
「ああ…」
フランソワーズがそっとドアから顔を出した。
「コーヒーでも淹れようかと思って――あなたもどう?」
「ああ…じゃあ、貰おうかな…」
あら、と彼女が声をあげる。その視線をハインリヒは追った。…窓の外の景色を見て、フランソワーズは目を輝かせた。
「ねえ、入ってもいいかしら…」
え、と戸惑うハインリヒ。しかし、駄目だと断る理由がない。本当のことなど、決して言えない。
「あ…ああ、別にいいけど…」
ごめんなさい、とフランソワーズは遠慮がちに足を踏み入れる。
「…素敵だわ…!ここからはこんな風に見えるのね…」
何とはなしにハインリヒも彼女の背後から外を眺めた。
「同じ海だろ、大して変わらないよ」
「そんなことないわ、結構違った発見があったりするんだから」
フランソワーズの髪が、ハインリヒの頬をくすぐる。ふんわりとした甘い香りが漂う。
キャミソールの、剥き出しになった白い肌に、思わず目を奪われた。そのまま追っていくと、豊かな曲線を描く2つのふくらみと、深い谷間に辿り着いた。
背後から抱き締めて手を差し入れたいという衝動を必死に抑え、ハインリヒはギュッと強く目をつぶった。
「こんな景色が永遠ならいいわね。ずっとこのままであって欲しいわ」
「そ…そうだな…」
ダメだ、と彼はフランソワーズの傍から離れた。
「あら、イヤだわ私ったら。声掛けに来ただけだったのに。じゃ、淹れたら持って――」
出て行こうとする彼女の細い腕を、ハインリヒは思わず掴んでいた。
?と振り向くフランソワーズ。
「あ…いや、何でもない…」
「すぐ持って来るわね」
フランソワーズは気にする風でもなく、ニコリと微笑い、ドアを閉めた。
(おいおい…)
ハインリヒは、思考と違う行動に出た自分に驚いていた。
彼女と2人きりになるのをあれだけ恐れていたのに。絶対大丈夫、という自信がないから避けていたのに。…彼女を呼び止めて、一体どうするというのだろう。
訳が判らなくなって、彼は小さくかぶりを振った。
――誰でもいいから、早く帰って来てくれ。でないと、俺は…。

3.
 ハインリヒの心配をよそに、戻って来たフランソワーズとの時間は楽しく過ぎていった。
何とかなりそうだな、と彼は安心した。この分だと、自分の心も乱れることなく平穏でいられそうだ。
…どうやら”音楽”が共通の趣味らしいと判り、喋りながら、フランソワーズが是非聞きたいというクラシックのCDを探していたハインリヒは、彼女の反応が鈍くなったのに気付いた。
ふと振りかえると、フランソワーズはソファにもたれ、気持ち良さそうに静かな寝息をたてていた。
「おい、フランソワーズ…こんな所で寝ちまったら風邪ひくぞ」
しかし、目覚める気配はない。
「参ったなあ…」
このままソファに寝かせておく訳にも行かず、仕方なくハインリヒは、彼女の身体を抱き上げ、自分のベッドへと運んだ。仰向けに横たえ、寝顔を見つめる。瞳が閉じられても、可憐な美しさは変わらない。
「他の男の部屋で眠っちまうなんて、危険すぎるぜ、フランソワーズ…」
呟きながら、彼女の髪に指を通す。サラ…と音を立てて、金色に輝きながら流れ落ちる。
こんなにゆっくりと、彼女を近くで見つめたことは、今までなかった。美しい、と思いながら彼は彼女の頬に触れる。…艶やかな唇を目の前にして、ハインリヒは自分の中で何かが弾けたのを感じた。心の奥で、良心が叫んでいる。…が、彼は、それを無視した。
吸い寄せられるように、唇を重ねた。瞬間、―――欲望が噴出した。
左手が、服の上から彼女の胸を鷲掴みにした。
「…ん…」
微かに、フランソワーズは眉間を寄せた。
ジョーだけがその腕に抱き、味わうことを許された、17歳とは思えない豊満な肢体。
触れてみたい、彼女の中に入りたい―――牡の激しい衝動が、ハインリヒの全身を駆け巡った。
深い谷間が覗く胸元に、そろそろと指を這わせる。滑らかな感触…溢れそうな程たっぷりとした量感の乳房が、プルンと震えた。
そっとブラジャーの中へ指を差し入れると、そんな微かな刺激にも敏感に反応して固くなっている乳首に触れた。
思わず、指の腹で弾いた。
「…あ…ん…」
フランソワーズの唇から、吐息にも似た甘い声が漏れる。
「…!…」
ハインリヒは、ハッと手を止めた。我に返り、改めて彼女の顔を見る。
…俺は、一体何をしようとしていた?!
…フランソワーズは、自分を信用している―――だからこそ、恋人でもない自分の部屋で、安心して眠りについてしまうのだ。無防備な姿を晒して。
―――その彼女の信頼を、自分は裏切るのか?
心の奥底に埋めてあった欲望を叶えたとき、それは同時に彼女を失うことになるのに。
(欲情して絶交か、永遠に演技して友人として愛されるか…)
ハインリヒは、天使のように眠るフランソワーズの頬に、再び触れて辛そうに顔を歪めた。

4.
「おいハインリヒ、帰ってるか?」
たった今戻ったらしいジェットが、ドアをノックした。
「みんな出掛けたのか?誰もいないんだけどよ」
と言いながらドアを開けたジェットの身体が固まった。
目の前で、あろうことかフランソワーズがハインリヒのベッドで眠っているではないか!
――何?何で?どういうことだ?
ジェットの頭は混乱した。
「ああ…何か、みんな出払ってるみたいだな」
声の方向を振り返ると、ハインリヒがソファで雑誌を読んでいた。ジェットの目には、コトが終わって一服している場面に見えた。
(こいつ…とうとうヤッちまいやがった!!)
頭に血が上ったジェットは、いきなりハインリヒの胸倉を掴み上げてまくし立てた。
「お前…何やってるか判ってんのか?ジョーにバレたら殺されるぞ!!俺だって必死に我慢して来たのを、お前ってやつは!!」
ハインリヒは冷静に、「落ち着けよ」と、ジェットの肩を軽く叩いて正面のソファに座らせた。
「落ち着いていられるか?!」
ジェットはまだ興奮している。
「大丈夫だよ、取り返しのつかないような真似はしてない」
「じゃあ何で彼女がお前のベッドで寝てんだよ?!」
簡単に、しかもジェットが納得するようにハインリヒは説明してやった。勿論、何もしていない、とも言った。ジェットは疑惑の視線を向ける。彼が言うには、「こういうオイシイ状況で手が出ない訳がない」。心の中でハインリヒは正解だよ、と呟いた。
「ホントに何もしてないんだろうな?!」
「ああ…」
「本当だな?!神様に誓って言えるか?!」
その言葉に、ハインリヒは少し考えた。チラリとジェットを見やる。
「そんなモンに誓いたくない」
「なぁにィィ?!」
その騒ぎの中、フランソワーズが気付き、ゆっくりと目を開けた。ベッドに寝かされていることに驚き、慌てて身体を起こした。ハインリヒとジェットの姿を見つけると、彼女は安心したように小さく一息ついた。
「お目覚めかい?」
「私…眠っちゃったのね…ゴメンなさい」
「いや…」
(謝るのは俺の方さ)
ハインリヒは歩み寄り、フランソワーズを優しく見つめた。その視線に、彼女はサッと頬を赤らめた。
「な…何…?」
それには答えず、彼は微笑んだ。
彼女の笑顔をまた見ることが出来て良かった、と心から思った。未だくすぶってはいるが、踏み止まってくれた自分の理性に、ハインリヒは感謝した。
もしあのまま彼女を犯すようなことになっていたら―――

 不意に、リビングが騒がしくなり、廊下に続くドアからジョーが顔を出した。
「フランソワーズ?」
パッと彼女の顔が明るくなる。
「ジョー!お帰りなさい」
互いに駆け寄り、フランソワーズを愛しそうに見つめ、その腰に腕を回すジョー。それを眺めて、ハインリヒは呟いた。
「王子様が現れて、めでたしめでたし、か…」
「あ?!…やっぱりアヤシイぞ、お前…」
ジト目で自分を見るジェットに、ハインリヒは笑って誤魔化した。
「しつっこいんだねェ。アメリカ人が粘着質な日本人にカブれてどうするんだよ」
「…オイ、話逸らしてねぇか?!」
ジョーと幸せそうに顔を見合すフランソワーズを見やる。
(今まで通りのポジションで良しとするさ―――ま、嫌われない程度にアクションは起こすけどな)
フッ、とハインリヒは微笑った。